十一月七日。 朝、沸し湯のぬるいのに入つてゐると、ごう/\といふ木枯の音である。ガラス戸に吹きつけられ、その破れをくゞつて落葉は湯槽の中まで飛んで来た。そしてとう/\雨まで降り出した。 終日、二人とも、炬燵に潜つて動かず。 十一月八日。 誘ひつ誘はれつする心はとう/\二人を先日わたしと中村君と昼食した市場といふ原中の一軒家まで連れて行つた。其処で愈々お別れだと土間に切られた大きな炉に草鞋を踏み込んで盃を取らうとすると不図其処の壁に見ごとな雉子が一羽かけられてあるのを見出した。これを料理して貰へまいかと言へば承知したといふ。其処へ先日から評判の美しい娘が出て来て、それだつたら二階へお上りなさいませといふ。両個相苦笑して草鞋をぬぐ。 いつの間にやら夜になつてゐた。初めちよい/\顔を見せてゐた娘は来ずなり、代つてその親爺といふのが徳利を持つて来た。そして北海道の監獄部屋がどうの、ピストルや匕首が斯うのといふ話を独りでして降りて行つた。小半日、ぐづぐづして終に泊り込んだ我等をそれで天晴れ威嚇したつもりであつたのかも知れない。 二階は十六畳位ゐも敷けるがらんどうな部屋であつた。年々馬の市が此処の原に立つので、そのためのこの一軒家であるらしい。